MISC - 上原 巌
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地域の森林におけるアメニティ ー田中林業(東京都檜原村)- 招待あり
上原 巌
山村の地域資源としての森林空間と有用植物の活用の事例 1 33 - 35 2023年06月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(大学,研究機関紀要) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
東京都檜原村の田中林業における森林アメニティの取り組みについて報告した。
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上原 巌
現代林業 2023年4月号 1 - 6 2023年03月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
現在、様々な大学間で教育研究のコラボレーションがおこなわれている。森林関係では、環境系、土木系、野外生物系の分野との共同研究が盛んだ。今回は建築学科の学生が大学演習林を訪れた。森林での体験実習をおこなうことにより、建築素材としてだけではない、樹木の魅力を学んだ事例として紹介した。
森林から産出される木材は、古来より建築材として主に利用されてきた。建築を学ぶ学生は、日頃からその木材に親しんでいる。しかしながら、その産地である森林には意外に出かけたことがないという学生が大半のようである。
そこで、今回は、東京農業大学の奥多摩演習林に建築学科の学生さんをお招きし、森林での学びを体験していただく機会を持った。
演習林に来訪されたのは、早稲田大学創造理工学部建築学科の古谷誠章教授の大学院生のみなさんである。みなさん森林の中の様々なことに関心を持ち、とても能動的であった。サンショウの葉の香りや、林床のスギ、ヒノキの稚樹などにも逐一みなさん関心を持たれていたことが印象的である。スギ林に入ったとたん、その梢を見上げ、「いいなあ、好きだなあ」と林内の風致を楽しんでいる学生さんもおり、こちらが嬉しくなるほどであった。
体験実習は、調査プロットを張り、毎木調査から始めた。みなさん、直径巻尺にも「ほお、便利ですね」と感心される。作業の飲み込みも早く、各自が効率よく動く。続いて、樹冠投影図の作成をおこない、森林土壌の断面の作り方なども説明したが、いずれも熱心に取り組まれていた。最後に50年生のヒノキを一本伐倒し、枝払い、玉切り作業をおこなっていただいたが、伐るたびに発散されるその芳香に、「いい香りー」と歓声をあげられていた。みなさんにはそれぞれ輪切りのコースターを持ち帰っていただいた。
今後も建築学との協働を続け、森林、樹木、木材の魅力と可能性はさらに広げていきたい。 -
都市近郊林における林業と森林アメニティ 招待あり 査読あり
上原 巌
森林科学 97 12 - 16 2023年02月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:日本森林学会
都市近郊林には、アクセスが容易である地の利から木材生産も含め、様々なメリットと可能性がある。本報では、その都市近郊林における現在の林業の状況とそこから創り出される森林アメニティ(森林の快適性、森林の恵み)について、
①田中林業(東京都檜原市)
②東京チェンソーズ(東京都檜原市)
③有限会社創林(埼玉県飯能市)
④中島林業(東京都青梅市)
の4つの林業体を報告した。 -
学術情報課程40周年記念「農大の殿堂」
上原 巌
東京農業大学 学術情報課程 1982~2022年における40年の歩み 1 ( 1 ) 16 - 18 2023年02月
記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(大学・研究所紀要) 出版者・発行元:東京農業大学
東京農業大学の学術情報課程(学芸員・司書養成課程)の40周年記念にあたり、所感を記した。
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上原 巌
森林技術 969 32 - 35 2023年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:日本森林技術協会
カラマツは、わが国に自生する唯一の落葉針葉樹である。極陽樹であり、乾燥地にも生育し、成長がはやいため、建築材のほか、かつては坑木や電柱などにも利用された。根は浅根性で、凹地の少ない平坦地を好み、弱酸性の土壌で林分が成立することが多いことなども知られている。信州の亜高山などでは、あちこちにカラマツの実生を見かけることが多い。しかしながら、東京農業大学の奥多摩演習林においては、カラマツ植林地はあっても、その実生を見ることは極めてまれである。
そこで面積約120haの演習林内のごく一部でみられるカラマツの実生に着目し、その分布状況の特徴を調べた。
調査の結果、奥多摩演習林内でのカラマツ実生は、相対照度が高い林道脇の裸地に生育する個体が大半であった。実生がみられたのは、石礫が多く、しかし生育点の土壌硬度は1kg/c㎡未満の柔らかな箇所である。土壌pHは弱酸性(平均6.4±0.3)であった。樹形は匍匐型が多く、根系は発達し、T/R率は低く、斜面に適応した屈曲の樹形が過半数であった。また、カラマツ実生と同時にみられた植生は、リョウブ、ウリハダカエデ、シデ類、クマイチゴ、ケヤマハンノキ、オオバヤシャブシなどであった。 -
森林の環境回復 放置された森林の新陳代謝をはかるこころみ
上原 巌
東京農大 東日本支援プロジェクト 2022年度 成果報告書 1 ( 1 ) 8 - 9 2023年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(大学,研究機関紀要) 出版者・発行元:東京農業大学
1.放置林の間伐実施のこころみ
東京農業大学では、2011年より相馬地方の森林に複数の定点観測地を設け、継続的に放射性セシウムの測定を行ってきた。その結果、2018年ころより観測地の樹木の枝葉などの採集サンプルからは、セシウム134(半減期約2年)、137(半減期約30年)ともに検出されないケースが少しずつ増え、自然種子散布による広葉樹、針葉樹の実生では、その双方が検出されない個体の増加もみられるようになった。これらの結果をふまえ、2019年からは相馬地方森林組合に作業委託をして、各地の私有林において間伐を実施してきた。2019年10月は相馬市今田地区のスギ林(36年生)、2020年12月には南相馬市原町区のヒノキ林(32年生)において間伐を実施した。いずれも50%の強度間伐の実施後は、林床の相対照度が20~30%前後に向上し、林床では20~30種前後の新生の樹木の実生が確認された。
2.広葉樹林における間伐の実施と間伐による林床植生の変化
上記のスギ林(2019年)、ヒノキ林(2020年)の間伐実施の結果をふまえ、2021年12月には、相馬市玉野地区のコナラ、クリ等を主林木とする広葉樹二次林において間伐を実施した。間伐率は50%である。ブナ科樹木を主体とした広葉樹林では、キノコの原木、薪炭材として福島県にとって極めて重要な樹種であり、その再生が強く望まれる。また、これまで実施したスギ、ヒノキなどの常緑針葉樹の人工林とは異なり、落葉広葉樹の二次林であるため、森林内および樹体内の新陳代謝の機構も異なるため、その結果が注目された。
間伐実施から半年後の2022年6月および11月の2回に分けて同林床の植生調査を行ったところ、40樹種以上の新生の樹木実生が確認され、その発生状況および成長スピードは、前年までのスギ、ヒノキ林の間伐後よりもさらにダイナミックであった。特にウルシ、コシアブラなどの陽樹のパイオニア樹木をはじめ、シデ類、カエデ類などの風散布樹木、そしてサクラ類、ミズキ類、ムラサキシキブなどの鳥散布樹木が確認されこと、コブシ、クロモジなどの薬用樹木も芽生え、過去2回の間伐では認められなかった樹種構成の多様性がうかがえたことなどが特徴的である。これらの実生の発生には、埋土種子の発芽のみならず、間伐による自然散布樹木の導入効果がうかがえた。
3.放射性セシウムの測定
植生調査とあわせて実生樹木枝葉や林床土壌を採取し、その放射性セシウムの測定もおこなった。マユミ、ムラサキシキブなどの鳥散布樹種や、アカシデ、イロハモミジなどの風散布樹木では非検出のものがみられ、またセシウム137が検出されたサンプルでも、数値は2000ベクレル以下であった。森林土壌では、落葉層では約700 Bq/kg、その下の腐植層では約5,000 Bq/kg、深さ5㎝の土壌層では約7200 Bq/kg、深さ10㎝層では2150 Bq/kgのセシウム137が検出された。
これらの結果から、当地の広葉樹林においても、落ち葉の腐植層から土壌の表層部に放射性セシウムが滞留していることがうかがえた。
4.今後の相馬地方の広葉樹二次林における展望
これらの結果をふまえ、今後の相馬地方における広葉樹二次林再生の施業方策としては、高木の伐採とその萌芽更新による若返り、新陳代謝をはかるとともに、間伐、除伐によって林内空間を開け、林床照度を高めることによって樹木の天然更新(風散布、動物散布等)を促進する手法が考えられる。 -
上原 巌
現代林業 2023年1月号 1 - 6 2022年12月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
森林、樹木の大切さや魅力を知ってもらうためにと全国各地で「木育」をはじめ、様々な野外活動や体験がおこなわれている。けれども、遠足や林間学校等での活動体験もあるものの、自分の暮らす身近な森林に入る体験は意外に少ない。また、現在は「香り」「アロマ」が一つのキーワードにもなっている。そこで、本報では、身近な森林の散策と樹木の香りをセットにした体験学習の事例を紹介した。
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多様化する森林アクティビティの最前線 ー森林療法のプログラムー (リレー連載:森林アメニティの新たな動向) 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 427 4 - 10 2022年12月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
森林療法のプログラムとして、
①森林の中で、「自分に居心地の良い場所」を見つける
②よい感触のものをさがす
③よい香りのものをさがす
④よい音のものをさがす
⑤森林の中で、おはなしをする
⑥森林の中で、「何かを見つける」
⑦森林で何かをつくる
⑧森林の中で作業を行う(作業療法)
⑨クライエントが提供する森林体験プログラム
の9つを代表例として紹介し、森林療法のプログラムを実施する上での基本的な心こころがまえ、留意点についても付記した。 -
コロナ禍の東京農業大学における代替実習 査読あり
上原 巌、根元 唯、佐藤孝吉
森林科学 96 28 - 31 2022年10月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:日本森林学会
新型コロナウイルス(COVID-19)は、中国・武漢市などで報告されて以来、2020年には全世界に拡大し、私たちの日常生活に様々な制限をもたらすパンデミックとなった。各学校現場においてもその影響を受け、インターネットを介在した配信教材による在宅学習への切り替え等の対応が行われた。
われわれ大学の森林関係の学科においてもそれは例外ではなく、教育の主幹である野外実習、フィールドワークについてもその代替措置が各大学で検討、講じられることとなった。
本報では、東京農業大学の森林総合科学科において、通常の演習林実習を大学構内での実習に代替した事例(2020年)と、演習林の代替地で実習をおこなった事例(2021年)の二つをご紹介し、それぞれの実習効果について検討、考察した結果を報告した。 -
森林と人との新しい関係 森林と人間が共に健やかに 招待あり
上原 巌
地域文化 142 10 - 15 2022年10月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(その他) 出版者・発行元:八十二文化財団
私たちの身近なみどりを活かした健康づくりは、実はさほど特別なことではない。私たちの日常生活の中でほとんど意識をせずにすでに行われていることである。例えば、家のプランターで花を育てたり、自宅の庭で野菜を育てたりすることは、植物の美や、作物の収穫の喜び、生きものを育てる達成感といった精神面だけでなく、手指をはじめとした身体のリハビリテーションにもなる。身近なみどりには、公園や緑地、寺社林のみどりなども含まれる。そのようなみどりの場所に出かけ、過ごすことが心身のリフレッシュや、日常生活のリセットの効用をもたらすのである。
森林における保健、休養の対象者は、観光客、保養客のようにお金を支払うことができる人ばかりではない。長期の経済低迷と今回のコロナ禍の影響により、仕事を失い、かつ自分の望む仕事に就くことができない方々が数多い。このような時であるからこそ、ガイド料のような特別なお金を払わなくても、また特別な場所に出かけずとも日常的にできる森林での保健休養、健康づくりが望まれる。もともと森林と人類との健康づくりは貨幣価値などのない先史時代から行われてきている。
かねてより「地域の時代」と云われてきた。様々な価値観が大きく見直される今だからこそ、従来のように中央からの働きかけを待つのではなく、自分の暮らす地域の自然、歴史、風土を生かした暮らしが再考される流れがある。今後は日常の生活や自己の生き方を、地域における自分の居場所、暮らしを大切にする時代になることも予想される。信州には、その基盤となる森林が各地域にある。
信州の森林の魅力とはなんだろう。それは端的に言って、多様性である。北は多雪地帯のブナ林から、南は暖帯のお茶畑まで、標高ではクヌギ、コナラなどの里山林から、高山のハイマツ群落まで、実に多様な森林の姿が信州ではみられる。また、中には、遺伝子的に貴重な植物種、動物種も数多い。
本報では、そのような自分たちの手による、自分たちの足元からの地域での健康づくりのこころみの可能性について、特に森林を活用した健康づくりを中心に考えた。 -
九州の里山での森林療法の研修会
上原 巌
現代林業 2022年5月号 1 - 6 2022年09月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
新型コロナウイルスの世界的なまん延とともに、森林における保健休養の意義も各地で高まっている。この状況下において、日本森林学会で1999年に提唱された「森林療法」もまた、その導入をはかる地域が増えている。
けれども、「一体どのように森林療法を地域に取り入れたらよいのか?」「うちの山林で、その森林療法はできるのか?」「特別な森林、特別な人材が必要なのか?」などの基本的な疑問を抱く地域も数多い。
そこで本報では、福岡県八女市の里山を活用した森林療法の研修会の事例を以下の通り紹介した。
森林療法の研修会をおこなったのは、福岡県八女市の黒木町。八女茶の産地でも有名な山間部である。地元のNPO法人山村塾(小森耕太理事長)の皆様とご一緒させていただいた。
研修会の場所は、コナラを主とした落葉広葉樹林である。林床には、ヒサカキ、ソヨゴ、イヌツゲ、チャノキなどの常緑低木や、コシアブラやハゼノキなどもみられ、コナラ、アラカシなどの落葉が豊富にある。当地で「自分の居場所」を林内でつくるプログラムをおこなった。手順は次のとおりである。
①4畳半程度の面積の林床の手入れをおこなう。ヒサカキ、イヌツゲ、ハゼなどを手鋸で除伐し、コシアブラやタラノキなどは残す。
②林床の落葉(乾燥したもの)を集める。
③間伐したコナラ、アラカシなどの幹や大枝の丸太をリレー運搬する。
④運搬したその丸太を井桁状に組む。
⑤そこに落葉を入れ、「落ち葉のこたつ」を作る
⑥林床に横臥し、落ち葉の布団をかける。
⑦日頃の生活をふりかえる自己カウンセリングをおこなう
なお、プログラムを行う上では、一番障害の重い方にあわせて行うことが肝要である。
コロナ禍をはじめ、現在の日常生活で様々なストレスを私たちは抱えている。また、職場などでも、心地よい場所が見つからないという方もいる。そこで、本事例のように自分の居場所を森の中に作り、そこで過ごすというシンプルなことも森林療法の一つになりうるのである。また、この事例でもわかるように、場所はどこにでもあるような森林であった。今回は広葉樹林でおこなったが、針葉樹林でももちろん行うことができ、特別なルールはない。
森林に語りかけ、あるいは働きかけ、一緒に心身の健やかさを取り戻していく。これが森林療法の基本である。
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日本の北限ブナ林と日本最古のブナ人工林を訪ねて ~ブナ林讃頌~ 招待あり
上原 巌
森林空間を利用した健康活動と森のアクティビティ 1 17 - 35 2022年09月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(大学・研究所紀要) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
ブナは日本の落葉広葉樹を代表する樹木である。極相(climax)の樹種であり、ブナ林の風景は、荘重さと華麗さの双方を兼ね備えている。また、ブナには生態学的にも利用学的にも、そして地域社会学的にもまだまだ様々な可能性がある。特に地域形成、地域文化としてのブナの力は大きい。
そこで、本報では、日本の北限のブナ林である、北海道寿都郡黒松内町、島牧郡島牧村のそれぞれの天然のブナ林と、亀田郡七飯町における人工ブナ林をそれぞれ調査し、その特徴とブナ林の今後の可能性を考察、報告した。 -
高齢者・障がい者のための森林のレクリエーション利用のてびき 招待あり
上原 巌
高齢者・障がい者のための森林のレクリエーション利用のてびき 2022年06月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
森林を楽しむことは広くすべての人に開かれている。うららかな陽射しでの春の散策。灼熱の都会から別天地の涼しい林間で憩える夏。虫の声や紅葉を楽しむ秋。そして、動物たちの足跡を見つける冬。四季を通して、森林は常に私たちをいざなっている。
では、年を追うごとに足腰が弱り、体力に自信を失いかけている高齢者、また心身に障害を抱えた方々は、いかがだろうか?森林に出かけることができているだろうか?また、高齢者、障害者がより楽しく森林を楽しむためにはどのようにしたらよいのだろう?
現在は、ヴァーチャル・リアリティ(VR)の技術も格段に進歩しています。都市部のオフィスや、病院、福祉施設の室内であっても、森林の風景や音をいつでも楽しむことができる。生活に制限があり、屋内で過ごさざるを得ない方々にとって、VRは一つの清涼剤にもなることだろう
しかしながら、VRの環境はいつも同じである。何回再生しても、同じ風景や音が繰り返される。けれども、本当の自然の森林は常に変化している。一日、一時も同じ森林の姿、森林の世界はない。森林を楽しむためには、やはりその森林に実際に出かけて過ごすことが必要である。
このてびきは、そうした高齢者、障害者のみなさまが森林を楽しむためにつくられた。すべての人にとって、森林の世界がさらに広がることを願っている。 -
北海道弟子屈町川湯温泉での森林療法の計画
上原 巌
現代林業 670 1 - 6 2022年03月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国
全国各地で、観光や地域住民の健康増進を目的とした森林療法の導入を計画している市町村がみられる。本報では、北海道上北郡弟子屈町(てしかがちょう)での事例をとりあげた。
弟子屈町は、面積774平方キロ、人口7000人弱のまちである。1961年に町に制定された。縄文文化とアイヌ文化が色濃く残る地域であり、町内にはアイヌ文化の博物館もある。現在の主な産業は観光と酪農。町内には阿寒摩周国立公園があり、摩周湖、屈斜路湖、硫黄山のほか、コタン、和琴、川湯、摩周の4つの温泉がある。今回はそれらの名所周辺の森林の特徴から同町における森林療法の可能性を考えることになった。町を訪れたのは、コロナ禍の状況下における2020年8月下旬と2021年11月の2回である。
屈斜路湖周辺には保健保安林(1999年指定)があり、この土地の生き証人ともいえる巨木や大径木が保存されている。特にカツラ、キハダ、シナノキの大木が点在しており、いずれも萌芽更新木である。キハダは、アイヌの祭祀に使うイナウの材料にも使われ、シナノキの樹皮からは衣類も織られた。大木は、おそらくアイヌ文化によって守られてきた名残であろると考えられる。こうした木々を散策の道標として巡るだけでも、十分に森を楽しむことができる。いまなお残る大木とアイヌ文化の持つ当地の風土そのものが観光としても大きな魅力を持っている。
同町では、単なる観光ではなく、温泉と森林を活用し、来訪客だけでなく、地域住民の健康増進も計画している。町内の川湯温泉病院では、地域の自然環境と共に人々が健やかになることを目指している。 -
放置された福島の森林の新陳代謝をはかるこころみ
上原 巌
現代林業 2022年3月号 60 - 65 2022年02月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
東京農業大学では、2011年より福島県の相馬地方森林組合と協働して、相馬地方の森林に複数の定点観測地を設け、継続的に放射線量の測定を行ってきた。その結果、2018年頃より観測地の林床に新たに芽生える実生や、コナラなどの落葉広葉樹の萌芽枝などからは、放射性セシウム134(半減期約2年)、137(半減期約30年)ともに検出されないケースが少しずつ増えてきた。
これらの結果を踏まえ、適切な森林保育がなされないまま放置されている相馬地方の私有林を対象として、その森林の新陳代謝をはかり、かつ林床照度を高め、自然散布樹木の導入をはかることを目的に、筆者らは放置林の間伐を実施している。
2019年には、相馬市内の約30年生のスギ林において間伐を実施し、林床の照度の回復や、約40種類の樹木の実生の芽生えを確認した。この結果を受けて、翌年の2020年には、南相馬市内の約30年生のヒノキ林においても間伐を実施した。同ヒノキ林は植栽後に枝打ちや間伐などが未実施の典型的な放置林であった。50%の本数間伐を実施したところ、林床の相対照度は間伐前の0.7%から約19%に向上した。
2019年のスギ林の間伐の際には、その森林土壌の放射性セシウムの分析も行った。深さ5㎝の土壌層では、3250ベクレル/kgのセシウム137が検出されたが、深さ10㎝の土壌層では300ベクレル/kgとその数値は10分の1以下に減少した。今回の2020年のヒノキ林間伐の際にも同様に分析を行ってみたところ、土壌の深さ5㎝から10㎝にかけては、セシウムの濃度は約40分の1に低下した。これらのことから、森林内の放射性セシウムは、林床の土壌の表層の部分に依然として滞留していることがうかがえる。原発事故のあった2011年から数年間は、林床の落葉層のセシウム濃度が高かった。しかし、その後、その落葉層の分解がすすみ、現在では、土壌にセシウムは移行をしているようである。また、当初は、森林に放射性降下物質のセシウムが蓄積され、森林から里の田畑にセシウムが流出するのでは?と危惧がされていた。しかしながら、これまでのところ、大量のセシウムが森林から流出するということはなさそうである。その大きな理由の一つは森林の土壌の構造である。隙間が多く、有機物が多く含まれる土壌だけでなく、有機物が少なく、粘土質の多い土壌にもセシウムは強く吸着されている。しかしそのため、土壌自体が大規模に流出するような台風被害や、土砂崩れなどの際には、土壌と一緒にセシウムも運ばれてしまうことが危惧される。それには、通常の森林であってもそうであるが、下層植生がある程度繁茂し、土壌流亡を防ぐことができる森林保育をしていく必要がある。今回のこころみでも、下層植生がほとんど見られなかったヒノキ林床に、間伐によって20種類樹木の芽生えを確認することができた。
間伐半年後の2021年6月には、林床に約20樹種の新生の実生が確認された。特にアカメガシワ、ウルシ、コシアブラなどの陽樹のパイオニア樹木や、シデ類、カエデ類などの風散布樹木、そしてチャノキ、ムラサキシキブ、クロモジなどの鳥散布樹木が確認され、間伐による自然散布樹木導入の効果がうかがえた。
これらの結果をふまえ、今後の相馬地方における森林再生の施業方策としては、間伐、除伐によって林内空間を開け、林床照度を高めることによって樹木の天然更新(風散布、動物散布等)を促進し、従来の針葉樹人工林との天然広葉樹との「針・広混交林」化をすすめる手法も選択肢の1つとして提言をしている。
2022年新春には、新たに相馬市内の広葉樹二次林の放置林においても間伐を実施した。ナラ類を主体とした広葉樹林は、キノコの原木、薪炭材として福島県にとって極めて重要な樹種であり、その再生が強く望まれる。これまで実施したスギ、ヒノキなどの常緑針葉樹とは異なり、落葉広葉樹では樹体内の新陳代謝の機構も異なる。実際、ナラ類の萌芽枝からはセシウム134,137ともに非検出のものがみられるようになってきた。引き続き広葉樹林の再生についても考究し、取り組んでいきたい。
※なお、本間伐作業にあたっては、2021年度の「大学等の「復興知」を活用した人材育成基盤構築事業」の助成を受けた。
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文学作品にみる森林浴
上原 巌
森林技術 958 30 - 32 2022年02月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:日本森林技術協会
1982年に時の林野庁長官秋山智英氏によって提唱された「森 「森林浴」はいまや国境を越え、“Forest bathing”として世界各国に広がっている.しかしながら、実は、国内外の文学作品の中にも、「森林浴」の要素は数多く散見される。
そこで本報では、以下の6つの作品例について取り上げた。
「車輪の下」
「西の魔女が死んだ」
「人生論ノート」
「阿弥陀堂だより」
「森の少年」
「The Giving Tree」
森林には心身の回復に供するアメニティ(豊かさ)を持っていることは、数多くの文学作品のうちに描かれている。そして、これらの文学作品に共通してみられることは、いずれも日常生活とは離れた場所に、森林の癒しの場が存在し、人間はその双方を往来することである。「車輪の下」「西の魔女が死んだ」「森の少年」「The Giving Tree」では、いずれも主人公は日常生活とは距離を置き、森の中で一人で過ごすこと、自らをリセットする時間を過ごすことが共通している。ここに森林における自立や自己再生の要素があり、また、この点にこそ、現在の森林浴、森林の保健休養機能に関するポイントもあると考えられる。その他リンク: http://www.jafta.or.jp/contents/shinringijuts/24_month2_detail.html
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連載 森と健康 みどりのリレー 第1回 雨の日に思い出すこと 招待あり
上原 巌
森林技術 957 37 - 37 2022年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:日本森林技術協会
長野県山間部の社会福祉施設に勤務していた頃の森林療法での思い出を紹介した。
その他リンク: http://www.jafta.or.jp/contents/shinringijuts/24_month1_detail.html
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森林の環境回復 放置された森林の新陳代謝をはかるこころみ
上原 巌
東京農大 東日本支援プロジェクト 2021年度 成果報告書 10 - 11 2022年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(大学・研究所紀要) 出版者・発行元:東京農業大学
1.放置林の間伐実施のこころみ
東京農業大学では、2011年より相馬地方の森林に複数の定点観測地を設け、継続的に放射線量の測定を行ってきた。その結果、2018年ころより観測地の広葉樹の萌芽枝などからは、セシウム134(半減期約2年)、137(半減期約30年)ともに検出されないケースが少しずつ増え、また、自然散布による広葉樹、針葉樹の実生では、その双方が検出されない個体も徐々に増加してきた。
それらの結果をふまえ、適切な森林保育がなされないまま放置されている相馬地方の私有林を対象として、その森林の新陳代謝をはかり、かつ林床照度を高め、自然散布樹木の導入をはかることを目的に、2019年10月に1回目の間伐を相馬地方森林組合に作業委託をして実施した。対象は、相馬市今田地区のスギ林で、1983年(昭和58年)に植栽されて以来、森林保育が行われていなかった36年生のスギ林である。
間伐を実施した結果、間伐率の段階ごとに林床照度には回復がみられ、間伐前の7%前後から、50%間伐区では約27%にまで相対照度が上昇した。また、間伐1年後の2020年11月に林床土壌の放射性物質濃度の測定をおこなったところ、林床の深さ5㎝の土壌からは約3250 Bq/kgのセシウム137が検出されたが、同じ場所の土壌でも深さ10㎝となると、300bq/kgと約1/10以下にその濃度が減少することが示された。林床には30樹種以上の新生の実生も確認された。
2.間伐実施後のヒノキ林の変化
前述のスギ林での間伐の結果をふまえ、2020年12月に、対象の樹種を変え、南相馬市内のヒノキ林において間伐を実施した。ヒノキ林は約30年生で、植栽後に枝打ちや間伐が未実施であり、間伐率は50%であった。
間伐を実施した結果、林床の相対照度は間伐前の0.7%から約19%に向上した。また、2020年6月に林床土壌を採取し、その放射性物質濃度の測定をおこなったところ、林床の深さ5㎝の土壌からは約21245 Bq/kgのセシウム137が検出されたが、同じ場所の土壌でも深さ10㎝となると、496bq/kgと約1/40以下にその濃度が減少することが示された。この結果から、当ヒノキ林においても、依然として土壌の表層部に放射性降下物質が滞留していることがうかがえた。間伐半年後の2021年6月には、林床には約20樹種の新生の実生が確認された。特にアカメガシワ、ウルシ、コシアブラなどの陽樹のパイオニア樹木や、シデ類、カエデ類などの風散布樹木、そしてチャノキ、ムラサキシキブ、クロモジなどの鳥散布樹木が確認され、間伐による自然散布樹木導入の効果がうかがえた。さらに、間伐に伴って野生動物の行動も活発化し、林内には果実入りの哺乳動物のフンが散見された。
以上の結果をふまえ、今後の相馬地方における森林再生の施業方策としては、間伐、除伐によって林内空間を開け、林床照度を高めることによって樹木の天然更新(風散布、動物散布等)を促進し、従来の針葉樹人工林との天然広葉樹との「針・広混交林」化をすすめる手法も選択肢の一つであると考えられた。 -
学校の先生方との研修会 -世田谷の街路を歩きながら- <連載>森林と健康 ー森林浴、森林療法のいまー 第26回 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 415 4 - 12 2021年12月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
森林療法を1999年に提唱して以来、20年余が経過し、国内外で様々な方々と森林療法の研修会を担当することがあるが、その中でも定期的に担当する各学校の教員との研修会について報告した。
環境教育、野外体験活動、課題発見学習など、森林が学びの場となることは現在では幼児教育からすでにスタートしており、幅広い活動、プログラムが今日までに作られている。また、学校教育において、森林を活用したプログラムは比較的に設定しやすい。
しかしながら、現在では、そもそも自然体験、野外体験があまりないという若い世代の教員も増え、それに追い打ちをかけるように、様々なリスク管理、補償問題などが圧力をかけ、その活動の減少を加速させている。森林での野外体験、教育活動、レクリエーションの企画をする前に、これらの現代の諸事情が二の足を踏ませている状況もうかがえる。
しかし、不登校などの生徒へのケア、先生ご自身の保養・休養、そして教職員間の人間関係の潤滑剤としての利用なども考えると、やはり森林には大きな包容力と可能性がある。
そこで本報では、その教員研修会でも、教員免許講習会での事例を紹介、報告した。 -
地域病院が所有する里山の整備 (放置林を森林療法の場に) 招待あり
上原 巌
現代林業 662 1 - 6 2021年07月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
現在、わが国では、各地域に適切な森林保育がなされないまま長期間の放置状態となっている「放置林」が増加している。それは、スギ、ヒノキ等の人工造林地のみならず、かつての里山や広葉樹二次林においても同様である。
その一方で、森林における保健休養や森林のもたらす風致作用の重要性と需要は高まりをみせている。一般のニーズはもとより、疾患や障害を抱えた人々の治療やリハビリテーションの場、環境としての需要も高まっている。
そこで本報では、東京近郊の地域病院において、約30年放置されてきた病院所有の広葉樹二次林を、保健休養のために整備した事例を取り上げた。
対象地は、東京八王子市に位置する医療法人永寿会(恩方病院・陵北病院)が所有する広葉樹二次林(面積約6ha)である。広葉樹林は、病院の南側に隣接して、高木層はコナラ、クヌギ、クリ、ケヤキ、エノキ、ホオノキ、亜高木層はイヌシデ、ヤマボウシ、アラカシなど、低木層は、エゴノキ、ヤマグワ、ヒサカキなどで、林床にはシノチクが繁茂している。立木密度は4000~6000本/ha前後で、整備前の林内の相対照度は5~15%程度であった。
これらの状況から、踏査、植生調査のあと、整備作業を委託された(株)東京チェーンソーズの皆様が除伐および間伐作業を行った。除・間伐の対象は、ヒサカキやアオキなど、林床を暗くさせる常緑樹を中心とし、作業後、立木密度は1500本/haとなり、林内相対照度は15~30%前後にまで向上した。林内の見通しも大きく改善され、最長で70m以上の直線距離を見通すことができるようになった。しかしながら、整備後であっても林床の樹種数は40種類前後をキープしている。除伐した材は休養ベンチを作って林内に設置し、間伐材はシイタケ原木、薪炭材として利用したほか、散策路の設置にも活用した。
今後は、同病院の患者、医療スタッフの休養空間、散策路をさらに整備し、同時に森林の生産物を活用した木育や作業療法などにも活用を行っていく予定である。