MISC - 上原 巌
-
上原 巌
現代林業 711 1 - 6 2025年07月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
東京農業大学(農大)には総合研究所(総研)という研究の総括組織がある。この総研では、科学研究費、競争的獲得資金による研究をはじめ、様々な研究活動の統括をおこなっており、さらに市町村や企業からも、調査研究の相談を幅広く受けている。たとえば、「私どもの村の山林の材積量を調べ、今後の造林計画も立ててもらいたい」「山林の植生調査をおこなって、どのような有用広葉樹があるのかを教えてほしい」などといった要望の相談がある。農大では伝統的にこのような要望を様々な方面から受けてきたが、2024年度からはこれらの要望に応えることを「受託研究制度」として学内に位置づけ、実施をしている。
筆者のその受託研究の初年度は、静岡県富士市と埼玉県飯能市の一企業より調査研究の依頼があった。本報ではその事例を報告した。 -
上原 巌
現代林業 711 54 - 61 2025年07月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
2011年3月11日に東日本大震災が発生してから12年。わが国未曽有の震災も、安倍首相の事件やジャニーズの事件などの陰になり、いまや忘却されつつあるようにもうかがえる。21世紀に発生したこの未曽有の大震災の特記事項は、その震災被害もさることながら、数日後に発生した福島第一原発の事故による放射能汚染による二重被害であった。原発事故は発生当初はレベル4と発表され、のちにレベル7、最悪の重大事故であったことが報告された。セシウム134、137などの目に見えない放射性降下物による汚染が東日本の各地に広がり、中でも事故発生時の風向きにもよって、福島県浜通り地方でその汚染度が高いことが報告された。2023年の現在であっても、山菜・きのこの採集ができない地域もあり、農家、林家のみならず、住民の不安もそのままである。
そこで、筆者の勤務する東京農業大学では、2011年当年より、「東日本支援プロジェクト」に取り組み、森林担当の筆者は、とりわけ森林の放射性物質の濃度が高いとされている南相馬市の山林を中心に、その汚染状況を調べ、森林再生の方策を探ってきたところである。
本論では、その取り組みの様子を報告した。 -
森林と健康 招待あり
上原 巌
杣径 77 10 - 19 2025年06月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:日本林業経営者協会
私たち人間が自らの健康に不安を抱く一方で、日本の森林もまた、病んでいる林地が各地にみられる。松枯れやナラ枯れなどをはじめ、全国各地で増える一方の放置林と、そこで発生する土砂災害や山火事など、森林そのものも多くの問題や病いを抱えている。かつて里山として存在していた地域の森林にも人が入らなくなり、身近な存在だったはずの森林は遠くなり、森林の健康などに注意を払わなくなっている。当の森林にとっては、「これまで何十年も放っておいて、今度はまた何事だ?癒し?セラピー?まったく何を言っているんだか」と感じているかも知れない。
本論では、私たち人間も、また私たちのまわりの森林も、健やかな生命のあり方を共にめざしていくという方向性、可能性を考察した。 -
<連載>森林と健康 森林浴、森林療法のいま 第33回 九州の山林での森福連携ワークショップ 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 457 ( 1 ) 8 - 12 2025年06月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:一般社団法人 全国森林レクリエーション協会
森林の再生のこころみは市民レベルで始まることが多い。本事例は、福岡県八女市の山林でおこなったワークショップである。2024年2月下旬に引き続き、5月下旬にも再度おこなったワークショップであり、今回も柳川市の社会福祉法人「宝箱」の利用者、職員と、八女市のNPO法人「山村塾」の職員およびボランティアの方々のご参加によって開催された。
※日本森林林業振興会の研究助成を受けた。 -
書評 井上真理子,杉浦克明編「自然とともに生きる 森林教育学」 査読あり
上原 巌
日本森林学会誌 107 ( 5 ) 134 - 134 2025年05月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:書評論文,書評,文献紹介等 出版者・発行元:日本森林学会
本書は森林教育を体系化し、初の森林教育学の教科書として編まれた一冊である。森林教育の内容として、本書では地域文化、自然環境、森林資源、ふれあいの四つの要素があげられ、それぞれの要素について、幅広い視点、領域からのアプローチ、様々な事例、様々なプログラムが紹介されている。
構成は2部からなっており、第Ⅰ部は森林教育の広がりについて。森林教育の定義、概要に始まり、その種類、そして専門教育や技術者、指導者の育成や実践事例について報告がされている。「環境教育」「野外教育」などの言葉とも対置、比較をしながら、論が進められ、小学校などの義務教育から高校教育、大学教育など、それぞれにおける森林教育が丁寧に整理されている。その中でも、ドイツにおける森林教育に関する認証制度や、特別支援教育における森林教育は興味深い。森林教育はもはや一つの媒体、体系であるがゆえに、国や対象が変わっても、その形を柔軟に変容していく様子がうかがえる。
第Ⅱ部は森林教育の実践。今度は森林教育の実践そのものに目を向け、実態調査や参加者の意識などについて調査をおこなうことによって、森林教育のもたらす効果と課題を提示している。 -
上原 巌
現代林業 704 1 - 6 2025年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
森林の再生のこころみは市民レベルで始まることも多い。本報では、九州の山林でおこなった森福連携のワークショップの様子を報告した。ワークショップの内容は、ヒノキ林で間伐された丸太の搬出作業である。ごくありふれた山林での作業が福祉と融合すると作業療法やリハビリテーションになり、さらには福祉サービスにもつながる事例といえる。
ワークショップがおこなわれたのは、福岡県八女市の70年生のヒノキ林である。地元の森林を管理するNPOの山村塾と柳川市の社会福祉NPO法人「宝箱」との協働でおこなわれた。同地における協働活動はすでに数年間にわたって行われている。間伐作業や除伐作業をおこない、用材として使われない劣勢木などは玉切りし、軽トラックに積み込む。これらの一連の流れが、発達障害を抱えている各施設利用者の作業療法やリハビリテーションになる。また、搬出された丸太や枝葉は、福祉施設の薪ボイラーに供され、施設の給湯や暖房、入浴介助サービスなどにいる。いわば森林の福祉利用が、地域の森林と複業種の人材によっておこなわれている。
ワークショップの翌日は、八女市の同じ林地にて、山村塾、宝箱の両職員を対象としてのワークショップをおこなった。内容は、森林カウンセリングと森林整備についてである。森林カウンセリングでは、「心地よい場所」「好きなもの」を探したり、最近の良かったこと、悪かったことなどを自己開示しあったりした。森林作業では、放置され、雑然とした林地の整備手法について、実地にプロットを設けての研修をおこなった。両方のワークショップを行ううちにいつしか参加者には共感性が生まれた。
「森林の癒し」は、特別な森でなくとも、どこでも可能である。大上段に振りかぶらず、ごく小面積の等身大の大きさからすすめ、体感されていくことが肝要である。 -
上原 巌
東京農大 東日本支援プロジェクト 2024年度 成果報告書 1 ( 1 ) 8 - 9 2025年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(大学,研究機関紀要) 出版者・発行元:東京農業大学
1.はじめに 相馬地方の放置林での間伐による植生再生
東京農業大学・東日本支援プロジェクトでは、2019年から相馬地方森林組合に作業委託をし、各地の私有林において間伐を実施してきた。2019年10月は相馬市今田地区のスギ林(36年生:立木密度3000本/ha、平均樹高11m、平均DBH 20㎝)、2020年12月には南相馬市原町区のヒノキ林(32年生:立木密度3500本/ha、平均樹高12m、平均DBH 15㎝)、2021年12月には相馬市玉野地区のコナラ、クリ等を主林木とする広葉樹二次林(立木密度3500本/ha、平均樹高17m、平均DBH 25㎝)、2022年12月には南相馬市小高区のヒノキ若齢林(約20年生:立木密度2000本/ha、平均樹高8m、平均DBH 14cm)において、それぞれ50%の強度間伐を行った。それらの間伐の結果、各林分の相対照度が向上し、新生の樹木の実生が確認された。そこで、本年度は、そのすべての間伐地における植生調査をおこなった。
2.方法
各林分において、間伐半年後に再度相対照度の測定をおこない、間伐前後の比較をおこなった。ただし、相馬市玉野地区の広葉樹二次林においては相対照度の測定は実施しなかった。2024年6~10月に、それぞれの林分において、10m×10m(1a)の調査区を4か所ずつ設け、林床の植生調査を実施し、実生の樹種、樹高、林床被覆度を調べた。
3.結果と考察
①間伐前後の相対照度の変化
いずれの調査区においても本数間伐率で50%の間伐を実施したが、各林分で相対照度の向上にはばらつきがみられた。32年生のヒノキ林では間伐後の相対照度は20%未満にとどまり、20年生のヒノキ林では、大きな向上が認められた。
これらのことから、やはり早期における間伐の実施が望まれることが示された。
②林床植生の変化
36年生のスギ林では31樹種の実生が確認され、32年生のヒノキ林では47樹種、20年生のヒノキ林では41樹種、広葉樹二次林では52樹種の実生がそれぞれ確認された。いずれの林分においても、コシアブラ、ヤマウルシなどのパイオニア種、陽樹が共通して多かった。このことから、間伐後の各林地においては遷移の初期段階にあることがうかがえる。また、各林分とも、鳥散布または風散布の樹種が多いことが特徴的であった。バラ科やカエデ類、つる性木本植物の実生も数多く確認された。林床の植生被覆度としては、スギ、ヒノキ林では低く、広葉樹二次林では高かった。しかしながら、いずれの林分においても実生の上長成長は1m以下のものがほとんどであった。
これらの結果から、スギ、ヒノキ林では、今なお林冠欝閉による低照度の影響が考えられ、さらなる追加間伐が必要であると思われる。とりわけヒノキ林の場合は、日光を遮る独特の樹冠が形成されるため、単純な本数による間伐率よりも、実際の林冠、樹冠の適正な配置による密度コントロールの方が重要である。当面は、この間伐の実施によって、林冠および林間の空間を開け、風散布、鳥散布などを、また埋土種子の発芽を同時に促していくことが得策であると考える。
植生的には、クリ、コナラ、ミズナラなどのブナ科をはじめ、ホオノキ、コブシ、カエデ類などの有用広葉樹が数多くみられた。また、貴重種のメグスリノキやクロモジなどの薬木もみられ、珍しい樹種では、おそらくタヌキによる種子散布と思われるゴールデンキウイも確認された。
今後は林床に発現したこれらの実生の育成をおこない、針広混交林の造成とともに、林床植生の有効活用をはかることが当面の課題である。
※本年度は、これまでの4回の間伐の実施後、林地に放置されている間伐丸太を、地元福島の小学校での木工作の教材に有効活用する企画を予定していた。しかしながら、あらためてそれらの放置丸太(n=20)の放射性セシウムを分析したところ、1500ベクレル前後の数値が検出され(2024年9月)、本企画は断念することとなった。数年後には、これらの間伐丸太の有効活用もぜひ実現をしていきたい。 -
「森福連携」の萌芽 査読あり
上原 巌
森林技術 991 24 - 28 2024年11月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:日本森林技術協会
農業と福祉の連携、協働を指す言葉として、「農福連携」という言葉がある。高齢者施設や障害者施設の方々が農地に出かけて、野菜や草花を育てる。そんな風景がその代表例である。農福連携は、就労支援や収益にも寄与している。農業と福祉は親和性が高く、その歴史も長い。その基盤には、植物と人間の親和性、相性の良さがある。
それでは、林業と福祉の「林福連携」はどうだろうか?あらためて言うまでもなく、林業は極めて危険度の高い作業をともない、高度な技術体系を要する営みである。その技術には一生をかけて練度を高めていく必要があり、福祉関係者のみならず、一般の方にとってもハードルが高い世界である。しかしながら、部分的には関与できるレベルのものもある。例えば、丸太の剥皮や種子採集、シイタケづくりなどの作業は幼児から高齢者まで取り組むことができる。また、森林にはもとより保健休養や風致の効果、作用がある。その景観をはじめ、芳香や山菜など様々なアメニティも有する。林業と福祉の連携では敷居が高いものの、森林と福祉の連携、「森福連携」であれば、意外に実行可能なことは多い。
そこで、本報では、この森林と福祉の融合、地域の森林を活用した福祉との協働についての各地における事例を報告し、今後の可能性を論じた。 -
上原 巌
現代林業 700 1 - 6 2024年09月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
全国各地でナラ枯れ(カシノナガキクイムシによる糸状菌の伝播)の被害拡大が報告されている。被害木の対策としては、伐倒して林外へ搬出、焼却することが現在でも最善策であるとされている。しかし、その材の利用法についてはまだ報告例が少ない。そこで今回は、その被害木の有効活用として、チップ化、堆肥利用をしている横浜市の取り組みの事例を報告した。
全国でナラ枯れが広がり、コナラをはじめ、シラカシやマテバシイ、スダジイなど、ブナ科の樹木の枯死被害が各地でみられている。過去にもナラ枯れが発生した例はみられていたものの、その際には薪として利用していたことでその拡大が防げていたのではと推察される。被害木の利用としては、健全な部位のカスケード利用などもすでに着手されている。しかしながら、カスケード利用されない被害木や端材などにはどのような利用方法があるだろうか?
本事例は、横浜市内の街路樹の被害木や剪定枝が集まる、同市緑区にある「緑のリサイクルプラント」(横浜市グリーン事業協同組合)のこころみである。横浜市では、市内の街路樹、公園樹などの枯死木、風倒木、被害木、剪定枝、伐根などを集め、チップ化、堆肥化するこころみを20年以上前よりおこなってきた。そこで、このプラントにおいては、従来の手法を継承し、2020年度より、市内のナラ枯れ被害木も有効活用して、チップ化、堆肥化を進めている。
コナラ、シラカシなどのブナ科のナラ枯れ被害木は搬入ののち、その小割り作業から始まり、細断・チップ化、発酵という工程が踏まれ、60~70℃の温度で4か月間かけて発酵し、堆肥にされている。費用対効果としては、1トンのナラ枯れ被害木から、処理費用を差し引き、生チップにした場合は17,450円の収益、堆肥にした場合は18,780円の収益が試算されている。
ナラ枯れ被害木においては、カスケード利用できることが好ましいが、チップ化、堆肥化も資源の循環上、有効な一つの選択肢であり、活用方法である。さらにチップは一定量があれば、パーティクルボードなどにも利用できる。
ナラ枯れは現在においてもパンデミック的な流行を見せているが、基本的な対処は、常日頃から適切に立木を伐り、利用することだ。そんな基本的なこともナラ枯れ被害木の利用をしていて再認識するところである。 -
<連載>森林と健康 森林浴、森林療法のいま 第32回 福祉団体および小学生との森林療法のワークショップ 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 448 4 - 11 2024年09月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
コロナ禍も落ち着きを見せ、日常の生活も元通りのローテーションで動くようになってきた。森林においても以前のように人々の姿が見られるようになり、森林浴、森林療法もまた通常運転に戻ってきている。「いまはコロナだから」と言って避けられてきたワークショップや研修会なども再開されている。
本報では、関東地方の私有林にて、森林作業を中心としたワークショップを東京都内の社会福祉の団体(就労支援)がおこなった事例(本誌2020年5月号 No.396の続編である)と、小学校の特別支援学級の生徒さんが近隣の森林公園に出かけた事例を報告した。 -
<連載>森林と健康 森林浴、森林療法のいま 第31回 九州の山林での「森福連携」 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 447 4 - 9 2024年08月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
森林環境には保健休養や風致の効果、作用があり、林内には景観をはじめ、芳香や山菜など様々なアメニティがある。
森林・林業と福祉の連携、協働、融合は敷居が高い印象があるけれども、案外身近でできることなのではないだろうか。
本報では、福岡県八女市の山林における「森福連携」の事例を紹介した。 -
障がい者・高齢者の保健休養活動及びレクリエーションによる 森林空間利用促進事業 令和5年度 森林林業振興助成事業成果報告書
木下喜博、古賀和子、高山範理、上原 巌
障がい者・高齢者の保健休養活動及びレクリエーションによる 森林空間利用促進事業 令和5年度 森林林業振興助成事業成果報告書 1 37 - 64 2024年06月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:機関テクニカルレポート,技術報告書,プレプリント等 出版者・発行元:一般社団法人 全国森林レクリエーション協会
障がい者や身体的機能の低下がみられる高齢者が森林空間において保健休養活動やレクリエーションを実施する場合、プログラム実行の担い手となる人材が不可欠である。そこで本年度の事業では、障がい者や高齢者についての理解のあるプログラム実行の担い手を養成することも目的とした。対象は、医療、福祉、介護、学校教育関係者のように、日常的に介助等で障がい者や高齢者に接している専門家およびボランティアである。高齢者、障がい者の森林空間を利用した保健休養活動を実施するワークショップを、西日本と東日本の双方で5回開催し、人材育成を行った。
(1)福岡県八女市黒木町でのワークショップ①(令和6年2月実施)
地元のNPO法人山村塾が柳川市の社会福祉法人宝箱からの依頼を受け森林療法の実践に取り組んでいる。ヒノキ林における作業療法として、林床の整備活動を実施した。除伐作業後、刈り取られた常緑の案木は80㎝の長さに切りそろえ束ね、軽トラックの荷台に積み込まれ、福祉施設の薪ボイラーで燃焼され、暖房等に利用される。森林療法を含め、森林の福祉サービスの一環であるともいえ、「森福連携」ともいえる。
(2)福岡県八女市黒木町のワークショップ②(令和6年5月実施)
再度、福岡県八女市の山林において、柳川市の社会福祉法人宝箱の利用者及び職員、山村塾の職員、ボランティアが参加してワークショップを実施した。70年生のヒノキ林において、間伐された丸太の搬出作業を実施した。
(3)福岡県八女市黒木町のワークショップ③(令和6年5月実施)
翌日、山村塾及び宝箱の両職員を対象として森林カウンセリングと森林作業のワークショップを開催した。
(4)埼玉県飯能市での福祉団体との森林療法ワークショップ
都区内の社会福祉法人の利用者を森林療法の対象者として、NPO法人MORI MORIネットワークの皆様とワークショップを実施した。ワークショップでは被害木の間伐を行った。伐り出したスギ丸太からはコースター作りを行った。また、枝葉からは芳香水を制作した。今回は、ミカン科のコクサギの葉から抽出したアロマウォーターが最も好評であった。森林で一日過ごした参加者は普段の施設では見られないほど穏やかな表情をされた方が多く見られた。
(5)小学校の児童との森林療法ワークショップ
特別支援学級に通い、発達障害などを抱えている子どもたちと、小学校の近くにある森林のある公園でワークショップを開催した。樹皮を触って樹種ごとの違いを感じてみる、ドングリの実を探す、大地に寝そべって樹冠を眺める、木陰でお茶を飲むんどの体験した。担任の先生方からの話を事後に聴くと、普段見られない姿が見られ、驚いたとのことであった。 -
上原 巌
現代林業 697 1 - 6 2024年06月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:速報,短報,研究ノート等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
「里山」「雑木林」というと、地域林、田舎のイメージがある。しかしながら、都市部の住宅街の中でもその名残りは見られるところがある。本報では人口92万人を抱える世田谷区の住宅街に残る里山、御料林での市民体験会の様子を報告した
成城三丁目緑地
東京は閑静な住宅街の成城の地に、かつての里山の名残りがある。「成城三丁目緑地」の名称で、現在は地元の世田谷トラストが管理をしている樹林がその例である。30㎞以上に連なる国分寺崖線の一角に位置し、古代の多摩川が削った段丘地形となっている。段丘からはところどころに湧水も見られ、石器時代、縄文時代の遺跡も発掘されている。瀟洒な成城の地は、有史以前より、人々が暮らす場であったのだ。
その成城三丁目緑地で、世田谷区主催の里山散策&森林療法の体験会が開催された。定員は30名。抽選でほぼ同数の方が落選した。里山は都市部の方々に人気があることがうかがえる。この地は、かつては皇室の御料林であり、戦後は林野庁が管理する林地でもあった。コナラ、クヌギ、クリなどの高木とヒノキ、アカマツ、そしてテーダマツなどの高木がそれを物語っている。また、当地は、世田谷区内では2番目の湧水量があり、サワガニ、オケラをはじめ、豊かな生物相がみられる。
しかしながら、その参加者のほとんどが、今回初めてこの緑地に入ったとのことであった。「いつも眺めてはいても、入ったことがない」との意見が大半を占め、この言葉は、そのまま今の私たち日本人の言葉そのものであるのかも知れない。森林は身近にあっても遠い存在になってしまっているのである。けれどもまた、その初体験の方々も、「こんなにいい場所が身近にあったことを全く知らなかった」「初めてなのに、懐かしい」などの感想を口にする。つまり、いまどきの市民と森林の関係には、相互を近づける何らかのきっかけが必要なのである。そして、このことは林業についても同様である。これからも森林と市民がより良い形で近づいていく方策も模索していきたい。 -
<連載>森林と健康 森林浴、森林療法のいま 第30回 医療法人ふらて会 社会福祉法人 ふらて福祉会(2) 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 442 9 - 12 2024年03月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
北九州市の地域病院と社会福祉施設における森林療法の導入の事例を報告した。
本事例研究は、財団法人 日本森林林業振興会より「令和4年度障害者高齢者の森林の保健休養モデル事業」の研究助成を受けおこなった。 -
<連載>森林と健康 森林浴、森林療法のいま 第29回 医療法人ふらて会 社会福祉法人 ふらて福祉会(1) 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 441 8 - 14 2024年02月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
高齢化社会は現在のわが国における特徴であり、高齢者の健康づくりもまた一つの課題となっている。多くの高齢者が何らかの疾患や体調不良を抱え、自らの健康に不安を感じ、また第二の人生を社会福祉施設で過ごすという高齢者も珍しくない。このような状況下で、今回は地域病院と社会福祉施設の敷地内に数haの森林を持ち、患者さん、利用者さんの保健休養に活用している事例を報告した。
なお、本事例は、財団法人 日本森林林業振興会より「令和4年度障害者高齢者の森林の保健休養モデル事業」の研究助成を受けおこなった。 -
上原 巌
現代林業 2024年2月号 1 - 6 2024年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国
海岸からはげ山に至るまで、植樹活動が全国各地で行われている。植樹は、緑化、造林目的だけでなく、いまや森林、樹木と一般の人々をつなぎ、意識を高める意義も持っている。本報では、国民的なアイドルともいえるサザエさんも参加した植樹ツアーの様子を報告した。
秋晴れの2023年10月28日(土)、埼玉県秩父市にて、住宅メーカーの伊佐ホーム主催、林野庁後援による植樹ツアーが開催された。特別ゲストは国民的なアイドルでもあるサザエさんとその一家で、ツアーの名称も「サザエさん森へ行く 植樹ツアーin秩父2023」であった。出発は、横浜の元町中華街駅、終点は、西武秩父駅である。
植樹ツアーには、修学前の幼児から80代の女性まで、スタッフを入れて百余名が参加をした。「森は海の恋人」のように表現されることがある。今回は秩父の森と横浜の海をむすんで行われた。その昔、秩父や飯能の山林から伐り出された木々、木材は荒川流域を下り、江戸に運ばれた。同時に、秩父の養蚕から生まれた生糸も横浜港に運ばれ、海外に輸出された時代もあったのだ。今回はその森と海の歴史もサザエさん一家と振り返りながらの植樹活動となった。
植樹されたのは、地元秩父の山林でみられる、ケヤキ、ミズナラ、クマシデ、ヤマグワなどの25種、計400本の苗木。一人4本ずつ、かつての森林公園跡地に植栽された。植栽後はコナラを中心とした広葉樹二次林にて、林床に横たわっての休養時間と、林床の実生を探すアクティブな時間の双方をもうけた。
現在、全国各地で様々なタイプの植樹活動が行われている。主伐後の通常の植樹のほか、津波被害地などの災害復興の植樹、記念植樹、慰霊植樹などもおこなわれている。そこでもう一歩。森林と市民をむすびつけ、さらに意識を高めていくための植樹である。今回はサザエさんという特別な存在の力を借りたが、それでも子どもたちは植樹をし、森の中で遊ぶだけでも十分に楽しい様子であった。もちろん下刈りなどの保育作業は待っており、不可欠だ。けれども、まずは「楽しめる植樹」、「遊べる植樹」「親しんでもらう植樹」も、市民の意識づけの導入段階では必要なのかも知れない。そんなことを今回の植樹ツアーに参画して考えた次第である。
※2025年6月、秩父市では66年ぶりに天皇皇后両陛下をお招きしての全国育樹祭が開催される予定である。 -
森林の環境回復 放置された森林の新陳代謝をはかるこころみ
上原 巌
東京農大 東日本支援プロジェクト 東京農大:復興から地域創生への農林業支援プロジェクト 2023年度 成果報告書 1 7 - 8 2024年01月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:東京農業大学
1.はじめに 相馬地方の放置林における間伐実施のこころみ
東京農業大学・東日本支援プロジェクトでは、2011年より相馬地方の森林に複数の定点観測地を設け、継続的に放射性セシウムの測定を行ってきた。その定点モニタリングの結果、2018年頃より観測地の樹木の枝葉などの採集サンプルからは、セシウム134(半減期約2年)、137(半減期約30年)ともに検出されないケースが少しずつ増えてきている。自然種子散布による広葉樹、針葉樹の実生では、その双方が検出されない個体の増加もみられるようになってきた。これらの結果をふまえ、2019年からは相馬地方森林組合に作業委託をし、各地の私有林において間伐を実施してきた。2019年10月は相馬市今田地区のスギ林(36年生)、2020年12月には南相馬市原町区のヒノキ林(32年生)、2021年12月には、相馬市玉野地区のコナラ、クリ等を主林木とする広葉樹二次林においてそれぞれ間伐を実施した。いずれも50%の強度間伐を行ったところ、林床の相対照度が向上し、新生の樹木の実生が確認された。
2.ヒノキ林における間伐の実施と林床照度、植生の変化
これまでの間伐実施の結果をふまえ、2022年12月に南相馬市小高区のヒノキ若齢林(約20年生)において間伐を実施した。実施した林分の平均樹高は約8m、平均胸高直径は約12㎝であった。
間伐実施半年後の2023年6月に林床の相対照度を測定したところ、間伐前の約6%から間伐後は約37%と飛躍的に林内の明るさが改善された。
これに伴って、間伐実施半年後の2023年6月および9月の2回に分けて同林床の植生調査を行ったところ、40樹種以上の新生の樹木実生が確認され、その発生状況および成長スピードは、2020年に間伐を実施した原町区の30年生のヒノキ林よりも旺盛であった。ウルシ、コシアブラ、ホオノキ、ハリギリなどの陽樹のパイオニア樹木をはじめ、シデ類、カエデ類などの風散布樹木、そしてサクラ類、ガマズミなどの鳥散布樹木が確認された。コブシ、クロモジなどの薬用樹木も発生し、これらの樹種構成の多様性は2021年に間伐を実施した相馬市の広葉樹二次林の状況とほぼ同レベルであった。これらの実生の発生には、埋土種子の発芽のみならず、間伐による自然散布樹木の導入効果もうかがえる。福島にとって、キノコ原木としても有用なコナラ、クリの発生が数多く見られたが、ヒノキ林分の周囲に広葉樹林はなかったため、これらは、主に動物による種子散布であると思われる。また、発生した実生の中では、クリの成長が特に著しく、中には、1mを越える個体もみられた。現在、日本各地で放置されたスギ、ヒノキ林床の貧弱な植生によって、土壌流亡や土砂災害が発生しているが、今回の間伐によって発生したこれらの樹木はその災害防備の効果を持つことも期待される。
3.放射性セシウムの測定
本年度も本年度も植生調査とあわせて実生樹木枝葉や林床土壌を採取し、その放射性セシウムの測定もおこなった。森林土壌では、深さ5㎝からのサンプルからは約10万ベクレルのセシウム137が検出された。しかしながら、深さ10㎝の土壌層になると4000ベクレルと、約20分の1以下にその数値は急減した。このことから、小高区の当地の森林土壌においても、放射性セシウムはその表層に滞留していることがうかがえる。林地の落葉層は約13,000ベクレル、コシアブラの実生は約25,000ベクレルと高かったが、ヒノキやコナラの実生はいずれも1000ベクレル前後であった。
4.各研修会の実施
2023年度は、5月に福島県県立相馬高校にて学校訪問型の農学サマースクールを実施し、6月には同高校にて相双地区の高校の理科の先生方対象の研修会を、9月には、小高区の間伐実施のヒノキ林にて、相馬地方森林組合の若手職員職員対象の研修会を実施した。相馬高校では、近隣の相馬神社、馬稜公園にみられる樹木の解説や採集、また樹形の観察などをおこない、理科の先生方にも教材研究の一環として同様の研修会を実施した。相馬地方森林組合の皆様方には、連年の間伐実施の御礼とともに、各森林調査の手法や、林床植物の解説と若齢ヒノキ林における間伐実施の効果について説明をおこなった。研修会では、山林所有者の方のお話を拝聴することもでき、有意義であった。
5.今後の相馬地方の山林における展望
今後の相馬地方における森林再生の施業方策としては、林内の放射性セシウムのモニタリングを継続して行いつつ、間伐による高木の伐採とその萌芽更新による若返り、新陳代謝をはかり、開空度と林床照度を高めることによって樹木の天然更新(風散布、動物散布等)を促進し、針広混交林を形成していく手法が考えられる。
これからも継続して相馬地方の森林保育、森林保全作業に携わっていきたい。 -
熊本県、福岡県の山間部での森林療法の研修会 <連載>森林と健康 -森林浴、森林療法のいま- 第28回 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 437 4 - 10 2023年10月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
2022年は、「森林浴」という言葉が提唱されてから、ちょうど40年の節目の年にあたる。ちなみに森林浴という言葉を1982年に提唱されたのは、時の林野庁長官の秋山智英さんであった。当時、私は長野県の高校3年生で、森林浴という言葉がつくられた時のことも覚えている。この頃、森林散策をはじめとした森林関係の番組やニュースが多かったと記憶している。何らかのブームが起きる時にはマスコミも連動するものなのだ。これは現在でも同様である。
森林浴という言葉が提唱された7年後の1999年、今度は私が日本森林学会で「森林療法」という言葉を提唱した。この森林療法という言葉が生まれてからも20余年の年月が流れたが、その後、「森林セラピーⓇ」という登録商標や各地での保養ビジネスも派生した。
森林浴と森林療法は今日では同列で扱われることが多い。実際、両者には重なる部分も多い。では、森林浴と森林療法の違いとは何だろう?それは端的にいえば、森林浴は、単純に各地の森林を楽しむことである。それに対し森林療法は、あくまでも「療法」の一つである。対象者があり、何がしらの目的があり、その目的に応じての然るべき森林があって、対象者別の適切なプログラムが準備され、効果がはかられる、という違いがある。
数年間続いているコロナ禍の影響もあり、現在、各地でその森林療法が見直され、導入をはかる地域が増えている。けれども、「どのように森林療法を始めればいいのかわからない」「自分たちの山林でも森林療法は可能なのだろうか」などの基本的な疑問を抱く地域もいまなお数多い。
そこで本報では、2022年3月に、九州は熊本県上益城郡甲佐町、福岡県八女市黒木町の里山を活用した森林療法の研修会の事例を紹介した。なお、この研修会にあたっては、日本森林林業振興会の研究助成を受けた。 -
上原 巌
現代林業 687 ( 1 ) 1 - 6 2023年08月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国林業改良普及協会
全国各地で、地域の森林を活用した保健休養、森林療法のこころみが始まっている。特に高齢化社会は現在のわが国における特徴であり、高齢者の健康づくりもまた一つの課題となっている。多くの高齢者は何らかの疾患や体調不良を抱え、自らの健康に不安を感じ、また第二の人生を社会福祉施設で過ごす高齢者も珍しくない。このような状況下で、今回は地域病院と社会福祉施設の敷地内に数haの森林を有し、患者、利用者の保健休養に活用している事例を報告した。
-
福島の高校生とのサマースクール <連載 第27回>森林と健康 -森林浴、森林療法のいま- 招待あり
上原 巌
森林レクリエーション 434 4 - 10 2023年07月
担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:記事・総説・解説・論説等(学術雑誌) 出版者・発行元:全国森林レクリエーション協会
東京農大の東日本支援プロジェクトでは、2019年より、「農学サマースクール」と題して、地元の高校生を対象に、夏休みの期間を利用して体験型の出前講座をおこなっている。身近なにいるイノシシやサル、タヌキなどの野生生物を赤外線カメラで調べたり、農地で昆虫を捕まえたり、その土壌を調べるなどのいくつかのプログラムを準備し、その中でも筆者は、「森林も人間も健康に」という講座を担当している。内容は、南相馬市内の身近な樹林地を散策し、その林床の自然散布の樹木を見つけたり、その枝葉からアロマウォーターを作成するなどの体験学習である。
本報では、その福島での高校生サマースクールの様子を紹介した。