講演・口頭発表等 - 小林 万里
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野付・風蓮湖におけるゴマフアザラシの季節変動 国際会議
中村 尚稔・小林 万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
北海道本土におけるゴマフアザラシの夏季の生息地は、野付・風蓮湖のみである。しかし、その野付・風蓮湖に夏季に生息するゴマフアザラシの生息数や季節変動のみならず、夏の行動圏、さらには、その北東に位置する北方四島や千島列島、さらにはサハリンからの南下個体との行き来などの関係は全く解明されていない。これらを最終的に解明するために、本研究では近年の夏季に野付・風蓮湖に生息するゴマフアザラシの季節変動を明らかにし、過去の個体数や変動パターンを比較し現況を把握した。
2008年および2009年の5月~10月に、週1回のペースで野付の個体数調査を行った。各年合計19回調査の結果、野付では2008年と2009年を比較すると、ほぼ同様の季節変動の特徴がみられ、夏季に観察個体数が最大になるピークがあり、その後秋口から減少し、再び冬に一過性の観察個体数の増加(聞き取りによる)が見られた。しかし、2008年より2009年の方が全ての特徴が早期に始まっている傾向が伺えた。このように2峰性が見られるのは、夏季の野付における生息個体が春から秋にこの場所を利用し、それらの個体が野付から退去すると、秋口から他の夏の生息地より南下してきた個体が、この野付を一時的に利用するためと考えられた。また、過去(青木 1992)には、近年とは異なり、秋に観察個体数の減少傾向は見られず、9月上旬からさらに個体数の増加が見られていた。
また、2009年の5月~10月に、週1回のペースで風蓮湖の個体数調査を行った。合計20回の調査の結果、風蓮湖内でアザラシ類の生息を確認出来なかった。そのため、風連湖内で操業している漁業者へアンケート調査を行い、風蓮湖の湖口周辺では、春・秋に数頭のアザラシを目撃するとの情報を得た。過去(青木 1992)には、春先には観察個体の確認は出来ず、初夏頃から秋口までに50頭ほど観察されていた。これらより、昔と比べ風蓮湖内に入って来る個体数は、現在減少していると考えられた。 -
礼文島に来遊するゴマフアザラシの個体数の季節変動および上陸場間の移動パターン 国際会議
渋谷未央・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
氷上繁殖型のゴマフアザラシ (Phoca largha) は、流氷が来ない北海道の日本海側には繁殖活動に参加しない亜成獣個体が来遊し、礼文島のトド島のみに約数百頭が来遊していた。しかし、近年、成獣個体が日本海側の上陸場でも確認されるようになり、その分布域は南下・拡大し、来遊頭数も数千頭と加速度的に増加している。さらに、来遊時期の早期化、退去時期の遅延化がみられている。一方、以前から来遊していた礼文島ではゴマフアザラシが周年観察されるようになり、上陸場の数も増えている。さらに、トド島では新生児が確認され、陸上で繁殖している個体の存在が明らかになった (渋谷 2009) 。
本研究では、日本海側におけるゴマフアザラシの生態変化の先駆的な場所だと考えられる礼文島において、来遊頭数と利用している上陸場の関係と、上陸場間の移動パターンを明らかにすることを目的とした。そのために、礼文島本土に調査地点を4箇所、トド島に1箇所設け、2008年12月から約1年間、定期的に個体数調査を実施し、各上陸場の個体数の季節変動を明らかにした。さらに、学術捕獲調査も実施し、捕獲個体へのタグ・ワッペン装着による近隣の上陸場への移動の有無と、衛星発信機装着による捕獲個体の回遊経路の把握を試みた。その結果、礼文島内の調査地点ごとで個体数の季節変動に差異があることがわかり、礼文島に来遊するゴマフアザラシは季節ごとに移動して上陸場を変えていることが考えられた。一方、学術捕獲調査から、トド島で発信器を装着した個体は、ほぼトド島周辺に滞在し、浜中でタグ・ワッペンを装着した個体はその後、トド島で再捕獲された。また、抜海港で発信器を装着した個体がその後トド島周辺に移動したことが確認された (小林 未発表) 。以上を踏まえ、礼文島への来遊個体には、1. トド島周辺を主に利用する個体、2. トド島周辺と礼文島本土の上陸場を利用する個体、3. トド島と他の日本海側の上陸場を利用する個体の存在が明らかになった。 -
北海道近海のゴマフアザラシ(Phoca largha)の頭骨および犬歯の成長と形態 国際会議
青木大海・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
ゴマフアザラシは、海洋の食物連鎖の高次捕食者であり、その生息個体数も多いことから生態系の重要な構成要素である。しかし、その回遊範囲が広域なために、生息状況が正確に把握できない。実際に、北海道の日本海側では、来遊個体数の激増・生息域の拡大・滞在期間の長期化などが起こっている。そのため、彼らの生息環境は大きく変化しており、個体数増加による餌資源や上陸場所の競争が起こっていると考えられる。餌環境の変化は、本種の頭骨や犬歯の成長に伴う形態・形状にも影響している可能性がある。
そこで、本研究では、近年北海道近海で採取し頭骨標本にした本種の歯を含む頭骨を用いて、それらの成長様式を把握することを目的とした。頭骨30ヶ所および犬歯8ヶ所の各部位をノギスを用いて計測を行った。それらの計測結果を用いて、まず、雌雄別に体長と頭蓋基底長および体長と犬歯長の関係を調べたところ、両者ともに雌雄差はなかった。そのため、雌雄を合わせて頭蓋基底長で成長段階別に分け、成長段階による頭蓋基底長および犬歯長の成長様式を調べたところ、頭蓋基底長では、すべての成長段階において正の関係ではあり、幼獣>>亜成獣≧成獣という関係が見られ、犬歯長では幼獣のみ正の関係で、亜成獣・成獣では犬歯長の成長はほぼないものと考えられた。さらに、すべての計測個所において、幼獣から亜成獣、成獣になるにつれ、雌のみ頭蓋で2ヶ所、犬歯では3ヶ所でサイズの減少がみられた。犬歯の各計測部位で雌雄間の分散分析を行った結果、亜成獣で有意差が多くみられた。亜成獣でみられた雌雄差は、雌は性成熟と同時に成長が止まるが、雄はわずかではあるが性成熟後も成長する傾向がみられた。本研究で頭蓋において雌雄間での差異が見られなかったことは、本種が一夫一妻性であるために性的二型がないためと考えられた。 -
ゴマフアザラシとネズミイルカの呼吸器の形態比較 国際会議
新井優一・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
ゴマフアザラシ(Phoca largha)とネズミイルカ(Phocoena phocoena)は、利用する水深などの生息環境や体の大きさなどが類似しているが、前者は生活の一部にて陸上を利用し、後者は完全に水中にて生活する。これら両者の一部における生息環境の違いや潜水行動の違いにより、呼吸器とその周辺部位においてどのような違いが生じているのかを知ることを最終目的とした。
そこで本研究では、水中における生活の中で重要な生理的活動に最も関連が強い呼吸器に着目して、呼吸器の各部位ごとの形態の比較を行い、それらの違いの意味を検証した。使用する個体数は、両者の体の大きさや混獲地域を可能な限り同じにした各2個体とし,解剖による特定の臓器,骨格の測定を行った。また,各臓器において重さと体積を測定した。
気管の形態では,ゴマフアザラシの気管は長く,硬かった。ネズミイルカの気管は短く,柔らかかった。また,ゴマフアザラシの気管はネズミイルカよりも弾力性が高かった。このことは,ゴマフアザラシが陸上でよく首を動かすためと考えられた。ネズミイルカの気管の形態は,海上に浮上して行うわずかな呼吸時間の気道抵抗を軽減しているためと考えられた。肺の形態は,ゴマフアザラシの肺は丸みを帯びていた。一方,ネズミイルカの肺は端に行くにつれて角になっており,全体的に細長かった。上記のことより,ゴマフアザラシでは円筒形の内部構造に合わせ隙間を埋めるように丸みを帯びていると考えられた。ネズミイルカは,頭頂部の鼻孔を水面に出すことで瞬時に呼吸を行うため,短い呼吸時間の中でできるだけ多い量の空気を取り込んで空気が巡りやすいように細長くなったのではないかと考えられた。骨の形態では,肋硬骨と肋軟骨の関節面にて,ゴマフアザラシでは一体化しており,一方ネズミイルカは柔らかく,前者よりも撓みやすくなっていた。これは,呼吸速度によって肋骨の撓み方に違いがあるためと考えられた。 -
北海道東部厚岸湾内の小定置網周辺におけるゼニガタアザラシの行動 国際会議
小林由美・小林万里・渡邊有希子・桜井泰憲
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
北海道東部厚岸湾内では,3-5月の刺し網・小定置網漁を中心としてゼニガタアザラシによる漁獲物の食害(漁業被害)が問題になっている.そこで本研究では,被害軽減策を検討するために,小定置網周辺においてバイオテレメトリー法によるゼニガタアザラシの行動追跡を行い,個体の出現記録と定置網の漁獲量や操業の有無,及び気象海象などの外部環境要因との関係を明らかにすることを目的とした.
2009年4月に,生体捕獲したゼニガタアザラシの成獣2頭について,超音波発信機(VEMCO社製,Canada,V16P-5H,平均発信間隔20秒)を接着剤(Loctite401)を用いて装着し,放獣した.設置型受信機(VEMCO社製,Canada,VR2W,受信範囲半径約300m)1個を小定置網に設置した.
No.1(メス)では,4月6日から4月22日までの17日間に1,368回,No.2(オス)では,4月6日から5月8日までの33日間に871回受信があった.出現確率(出現日/調査期間)は,調査期間全体ではNo.1が16.7%,No.2が41.5%,4月ではそれぞれ26.9%,52.0%,そして5月では0.0%,25.0%であり,両個体ともに定置網内で採食するために繰り返して定置網周辺に出現していると判断された.成獣メスは,出産・育児期になり上陸場周辺で過ごす時間が長くなったために,4月下旬から網場周辺に出現しなかったと推察された.両個体とも,潮の干満の差が大きい日の高潮時に漁場周辺に出現することが多かった.本種は一般的に,日中の干潮時に上陸場に上陸して休息し,潮が満ちて上陸場スペースが小さくなると降海して採食するため,これに一致した日周行動をとっていると推察された.毎日のアザラシの出現の有無及び滞在時間合計は,同定置網の総漁獲量とは関係がなかった.両個体ともに,調査期間を通して操業時間帯である午前4-7時は網場周辺に全く出現していなかったことから,漁船を避けていると推察された.なお,本研究は,環境省(H19-21年度)ゼニガタアザラシ共存構築モデル事業による. -
非繁殖期における飼育下のゴマフアザラシとゼニガタアザラシの音声分類 国際会議
木内政寛・赤松友成・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
哺乳類は一般に、威嚇(縄張の主張を含む)や仲間への警告、求愛行動といったときに音声を利用する。日本に来遊・生息するゴマフアザラシとゼニガタアザラシは、近縁種でありながら繁殖生態や回遊様式に差異がみられ、この相違が、彼らが利用する音声にも反映されているのではないかと考えた。そこで本研究では、これら近縁2種が発する音声を記録して分類し、非繁殖期における音声の種による違いを明らかにすることを目的とした。 北海道室蘭市にある室蘭市立室蘭水族館で、2009年12月2日から14日の13日間調査を行った。観察・記録は目視とビデオカメラ、PCMレコーダーで行った。解析指標として、時間、最高周波数、中心周波数、最低周波数の4つをAdobe Audition3.0を用いて計測し、まず時間で4つに分類した後、最高周波数、中心周波数、最低周波数でR2.10.0を用いたクラスター分析で音声分類を試みた。 合計1734個の音声が得られ、波形が明確な792個の音声を分類に使用した。その結果、合計9種類の音声タイプのクラスターに分けられた。各音声タイプ1,2はゴマフアザラシでのみ見られたため、この種特有の音声である可能性が示唆された。またこの音声タイプは、水中に潜っても発せられていたことから、水陸両方において何らかの目的で使用している可能性が考えられた。他の音声タイプでは、2種のアザラシが混在していた。各音声タイプの中心周波数と最低周波数はゴマフアザラシよりもゼニガタアザラシのほうが若干高かった。顔の向き及び発生前後の行動から発生相手を特定した結果、ゼニガタアザラシの音声は、ほとんど発生相手がいたのに対し(N=74/76)、ゴマフアザラシはほとんどいなかったことから(N=4/716)、音声の高低は、種差よりも発声相手の有無に起因している可能性も考えられた。また、ゴマフアザラシの音声のほとんどは亜成獣の1個体が発しており(N=710/716)、発声相手が特定できず、遊び行動と付随して発声していたことから、不特定の相手への遊び誘因の音声の可能性もあった。
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北海道日本海側に来遊するゴマフアザラシの回遊と潜水行動の特徴 国際会議
西本慧・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
近年、北海道日本海側に来遊するゴマフアザラシの個体数は増加傾向にあり、漁業被害の拡大を引き起こしている。しかし、ゴマフアザラシに関する生態学的な情報は乏しく、アザラシを適正に保護管理するための基礎的な情報は不足している。そこで本研究では、日本海側に来遊してきたゴマフアザラシを捕獲し、それらに衛星発信器を装着し、得られたデータから回遊ルート、潜水行動を解析し、その結果により彼らの回遊生態の特徴を明らかにすることを目的とした。
2008年5月に焼尻島で41.0kgの亜成獣雄を、2009年2月に抜海港で78.0kgの成獣雄と50.0kgの亜成獣雌のゴマフアザラシを捕獲し、発信器(CTD-SRDL9000:SMRU)を装着した。その後、衛星回線を介して、計3頭分の位置情報、水深、水温等のデータを得た。焼尻の雄は2008年5月23日から同年9月28日までの129日間、抜海の雄は2009年2月26日から同年4月21日の55日間、雌は2009年2月27日から同年5月14日までの77日間のデータが得られた。
焼尻の雄はリリース後、焼尻島からサハリン南端のアニワ湾へと北上し、発信が途切れるまでそこに滞在していた。抜海の2個体は、一旦抜海港より南下した後にサハリン方面へと北上していったが、雄はタタール海峡側、雌はオホーツク海側に移動した。このことから、北海道の日本海側に来遊してくる個体の夏の生息地は少なくともオホーツク海側、タタール海峡側の2グループが存在することが考えられた。このことは同時に、繁殖地も2系統が混在している可能性があることが示唆された。ゴマフアザラシが北上を開始した時期は、早い順に抜海の雄、抜海の雌、焼尻の雄であったため、体サイズの大きいものから北上を開始していることが考えられた。3個体とも北上中に、平均潜水深度、平均潜水時間、最大潜水時間で最大の値を記録したため、長距離を移動する際には深く潜りながら移動していることが考えられた。 -
そこにアザラシがいるのに、なぜ捕れないのか? ~箱罠を使ったゴマフアザラシの捕獲~ 国際会議
小林 万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
近年の北海道日本海側へ来遊してくるゴマフアザラシの個体数増加に伴い、沿岸漁業との軋轢が深刻化しており、一部の地域では既に有害駆除を実施している。将来的に、個体数調整が必要になってくると思われるが、雌雄判別が野外個体では困難であることから選択的な効率の良い間引きは期待できない。また、船からの銃猟を利用した捕獲では、上陸場を狙う場合と遊泳個体を狙う場合に分れる。上陸場を狙う場合、1発撃つとディスターブになってしまい、その後しばらく上陸場に上陸しなくなる。また、船で近付くことのできる距離も100m以上である(場所によって異なる)。一方、遊泳個体を狙う場合、上陸個体よりも近づくことが出来るが、的となる面積は非常に狭くなる。揺れる船からであると、命中率はかなり低くなるものと予想される。さらに、個体数管理をして行く以上、個体を回収して有効利用する必要があるが、半矢にしないと個体が浮かず回収ができないと言われており、回収も困難を要する。 そこで、近年、日本海側のゴマフアザラシの回遊生態を調べるために捕獲用に使用している箱罠で、その捕獲効率を調べ、個体数調整に有効かどうかを検証した。この箱罠は、北方民族が実際のゴマフアザラシの捕獲の際に利用しているもので、ゴマフアザラシの流氷に乗る特性を生かして考案されたものを改良したものである。これまでに、2009年2月~2010年5月にかけて、この箱罠で、36個体のゴマフアザラシの捕獲に成功した。捕獲成功は、捕獲季節や生息個体数に大きく影響されることがわかり、捕獲される個体は幼獣が66.7%を占めていた。このことから、箱罠で混獲される個体は、上陸場を確保できない弱齢個体や遊び行動の旺盛な幼獣であることが推測された。また、同時捕獲がたびたび見られ、最高4頭のアザラシが同時捕獲され、1頭が捕獲されると他個体も誘引される可能性が示唆された。
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北海道日本海側に来遊するゴマフアザラシ(Phoca largha)の個体数変動パターン 国際会議
加藤美緒・河野康雄・伊東幸・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
近年、北海道周辺海域に来遊するゴマフアザラシ(Phoca largha)の個体数は激増し、生息海域を南下・拡大、上陸場も増加している。これに伴って、上陸場周辺海域における漁業被害が深刻化しており、早急な対策が求められているが、彼らが日本海側にいつ頃来遊し始め、各地域でどのような個体数変動パターンを示すのかは明らかではない。
そのため本研究では、北海道日本海側の主な上陸場である抜海港と焼尻島に注目し、彼らの来遊時期や個体数の季節変動を比較することで、2地域の個体数変動パターンの特徴、来遊時期や退去時期の条件を明らかにすることを目的とした。
2003年から2009年(主に10月~翌年4月)に調査された、抜海港と焼尻島の各地域における日毎の午前9時付近のゴマフアザラシの個体数データと、観測時間帯の水温データを用いて分析を行った。
その結果、来遊開始時期、個体数ピーク時期、退去時期ともに差異が見られ、2地域の個体数変動パターンの違いが明らかになった。抜海港は一度、焼尻島は二度の個体数ピーク時期があり、来遊開始時期と退去時期には2地域で半月ほどのずれが見られた。しかし、来遊開始時期・個体数ピーク時期・退去時期の平均水温は2地域でほぼ一致していた。これは、ゴマフアザラシの餌生物が水温に依存しており、アザラシは餌が豊富な海域周辺の上陸場を選択しているため、各時期の水温一致が見られたと考えられた。また、2地域とも来遊開始時期と退去時期の月平均個体数が年々増加傾向にあったことから、来遊開始時期の早期化、退去時期の遅延化が起きている可能性が示唆された。また、抜海港の年平均個体数は年々増加傾向にあったものの、焼尻島は2006年以降あまり変動がなかった。さらに、抜海港は2007年から2008年にかけて個体数の増加率が高くなっていた。焼尻島の上陸場の大きさを考慮すると、2006年には焼尻島の上陸場を利用可能な個体数が限界に達し、焼尻島に上陸できない個体が抜海港に移動したため個体数の増加率が高くなったものと考えられた。 -
厚岸・大黒島におけるゼニガタアザラシの雄の上陸行動の解明 国際会議
田村善太郎・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
北海道太平洋側に周年生息するハーバーシールの1亜種であるゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)は、個体ごとの体の斑紋模様の違いにより個体識別が可能である。新妻(1986)は、その斑紋模様による個体識別法を利用して、北海道・厚岸・大黒島での個体別の上陸場所の選択性や上陸集団内の個体の配列、上陸場での警戒行動などを解明した。その当時に比べ、現在、大黒島では、個体数が約3倍に増加し、上陸場として利用する岩礁も増加した。それに伴い、上陸場競争が激化しており、季節や雌雄別に利用する上陸岩礁や上陸時間などの上陸生態に変化が起きている可能性がある。
そこで、個体数増加がゼニガタアザラシの上陸生態にどのような変化をもたらすのかを知ることを最終目的とし、本研究では、大黒島における換毛期の上陸個体数が何の要因によって決まっているのか、さらに、雄の連続上陸時間やその上陸生態を明らかにした。調査期間は、換毛期である2008年7月17日から9月2日の48日間、毎日5時から18時までの毎時間、各上陸場の個体数と環境記録を取り、上陸場全体の写真と上陸しているアザラシの個体識別用の写真を撮影した。
換毛期における1日の最大上陸個体数は、月・日・潮まわり・最大干潮の時間・最大上陸数の時間・観察できた総時間を説明変数として一般化線形モデルに当てはめ、BICを評価値として使ったboth ward stepwise法で変数選択を行った。同様に、個体識別した雄10個体の1日の連続上陸時間を、月・日・観察できた総時間・個体名・換毛前かどうか・上陸場所・移動回数の説明変数を用いて解析した。さらに、これら10個体の1日の上陸場所の移動パターンを追跡した。以上の結果、換毛期の1日の最大上陸個体数は潮まわりと観察時間によって説明でき、観察時間が多く、大潮の日に最大となった。雄の1日の連続上陸時間は、上陸場所と移動回数で説明でき、満潮時に水面より上の岩礁に上陸し、潮が引くとともに1、2回移動して水面に近い上陸場所に移動することにより、連続上陸時間が長くなった。 -
北海道に生息・来遊するゴマフアザラシの胃寄生性アニサキス科線虫の感染状況 国際会議
宇山倫美・巖城隆・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
ゴマフアザラシの胃に寄生するアニサキス科線虫は、宿主の餌生物から体内に入るため、宿主の生息状況により、それらの感染状況が異なると推測される。線虫の感染や宿主内での成長がどのような要因によって変化するのかを解明できれば、線虫から終宿主の生息環境を予測することが可能になるかもしれない。そこで、本研究では、宿主のサイズや、生息環境が異なるとこの線虫の感染状況がどのように変化するのかを明らかにすることを目標とした。ゴマフアザラシは、日本海(n=14:2~4月)、網走・羅臼海域(n=9:4~6月、10~11月)、野付海域(n=11:12~3月)から34個体を収集した。それらのゴマフアザラシの胃から採取したアニサキス科線虫は大きさを分け、計数し、その後ラクトフェノールを用いて透化をし、形態で種同定を行った。その結果、Pseudoterranova 、Contracaecum 、Anisakis の3属が検出され、その中で成虫が存在したのは前2者(P.decipiens、C.osculatum)のみであった。宿主のサイズや採集季節、採集海域でアニサキス科線虫の数やサイズを比較したが、宿主の採集海域とアニサキス科線虫の寄生虫体数のみ有意な差が見られ、日本海の寄生虫体数は他の海域に比べ多かった。このことはアザラシの採集季節が、この海域で最もゴマフアザラシの生息密度が高い時期の直後であったことや、同時期のトドの来遊が関係しているのではないかと考えられた。寄生虫種としてはPseudpterranova幼虫が多い傾向がみられた。網走・羅臼海域ではAnisakis幼虫の寄生が多く見られ、A.simplexの好適終宿主であるミンククジラもこの季節この海域へ来遊しているためと考えられた。野付海域では寄生虫のサイズは比較的大型のものが多い傾向があった。今回はサンプル数の関係で、複数要因で検定することができなかったが、様々な要因がゴマフアザラシへの寄生虫の感染状況を決定していることを示唆する結果となった。
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野生界で、ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの交雑は存在するのか? 国際会議
小棚木創・小林 望・吉川欣亮・小林万里
日本哺乳類学会2010年大会 2010年09月
開催年月日: 2010年09月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
日本近海で、主に観察されるアザラシは、ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの2種である。両種は、遺伝学的に非常に近縁で、フィールド上で両種を分類する際には、主に毛皮の斑紋模様の差異が用いられている。しかし、2006年と2007年に襟裳岬で野生捕獲されたアザラシ3個体(以下、襟裳個体とする)は、外部形態である毛皮の斑紋模様から判別した種とは異なるミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプロタイプが検出され、北海道沿岸でも自然環境下で異種間交雑が生じている可能性が示唆された。そこで、本研究は、核の遺伝子マーカー(マイクロサテライトおよびSNP)を用いて、ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの自然交雑の可能性を検討することを目的とした。本研究では、両種間の多型を検出するため、29種のマイクロサテライト(Ms)および5種のSNPマーカーを用いて、PCR-SSLP法および塩基配列決定により両種の遺伝子型を判定した。また、得られたデータから系統遺伝学的解析を行い、調査個体間の類縁関係を検討した。その結果、Msマーカーを用いた解析においては、両者に特異的なアレルは検出されず、この方法で、両者を明確に区別することはできなかった。また、同様にSNPマーカーを用いた解析においても、両種間を明確に区別可能なマーカーは得られず、両種は遺伝的に近縁であることが推察された。しかし、mtDNAを用いた系統遺伝学的解析においては、両種は明確に区別され、本研究においても両種特異的な多型部位が認められた。そこで、襟裳個体への両種からの核ゲノムの流入の可能性を追求するため、SNP情報から系統遺伝学的解析を行った結果、両種はそれぞれが独自のCladeを形成する傾向は認められ、2個体は系統学的に両種の中間に位置づけられたことから襟裳個体は両種からゲノムを受け継いでいる可能性が示され、両種間の自然交雑が起こっている可能性が分子遺伝学的に支持された。現在、この結果を証明するために両種間を区別できる多型マーカーの開発を行っている。